7/3(日)聖霊降臨節第5主日
招 詞 詩編149:1
交読詩編 34:1-15
聖 書 アモス書 7:12-15
マルコ福音書 5:21-34
説 教 「ほかに救いはなかったから」
川浦弥生 牧師
讃 美 歌 26(1).155(1,4).196(1,4).91(2).524(1.3).92(1)
<ことば> ヤイロは当時のユダヤ社会の祭司階級のひとであり、会堂長という地位のある男性です。会堂長は会堂の建物管理や礼拝の準備をする立場で、地域共同体の行政の長を兼務することもありました。行政の長ですから市長のような立場でしょうか。ユダヤ共同体の中心に近い立場の男です。つまりこの群衆の中では最も地位が高い男性です。ヤイロという名前は“神は光を与える”という意味です。彼はイエスの真ん前に進み出て、足元にひれ伏し、はっきりと「死にそうな娘に手を置いてほしい」と言います。他方イエスの服に触れる女には名前が出てきません。見えないところから群衆に紛れて、こっそりと後ろから、黙ってイエスの服に触れます。まったく正反対の行動を描くことで、マルコは二人の社会的立場の差を明瞭に描いています。レビ記に記された出血についての規定で、この女性の通常とは異なる出血は穢れた者のしるしとされ、彼女が使ったものに触れる人も汚れるとされました。ですから、ユダヤ人の共同体から疎外されてしまうのでした。こういった出血や皮膚からの体液の浸出は、守られた枠を出ることや秩序が崩れることへの恐れをこういった形で表現していたと言われています。この女性は、共同体を代表する立派なヤイロとは対照的に、この共同体の中で最も小さく、低くされた人でした。
群衆の中に埋もれるように隠されていた彼女が語ったとき、そこに立ち現われたのは、長い間の苦しみと、他者に存在を軽んじられ、狭い世界に封じ込められてきた、ひとりの人間の真実の言葉でした。